鶏卵摂取のガイドライン
鶏卵はコレステロールが多く、動脈硬化を気にする人は鶏卵を制限してきました。それは、コレステロールを多く摂取すれば血中コレステロールが増加し、動脈硬化を促進すると考えたのです。しかし、この三段論法は問題がありました。
コレステロールの吸収は調整されています。そのため、食品中のコレステロールが多少増えても血中コレステロールに大きく影響しないかもしれません。また増加したコレステロールが動脈硬化と関連するかどうかも確かめる必要があります*。
食品中のコレステロール、鶏卵と心血管系疾患、死亡との関連を検討したメタ分析論文(Am J Clin Nutr 2015)を見ますと、 (1) 食品中のコレステロールが増えると血中のコレステロールが少しだけ増えます。(2) しかし心血管系疾患との間に関連を見出せませんでした。
最近は「一般人では鶏卵摂取と心血管系疾患の間に関連がない」と考える人が多くなってきました。そのため各国の食事ガイドラインから鶏卵制限が除かれました。
我が国でも「日本人の食事摂取基準2015年」で鶏卵摂取の目標量を算定することを控えました(日本人のデータ**も検討されています)。
「日本人の食事摂取基準2020年(案)」が提案されています。「脂質異常症および循環器疾患の発症予防の観点から目標量(上限)を設定するのは難しい」は2015年版と同じです。しかし、動脈硬化学会のガイドラインと整合するように「脂質異常症を有する者及びそのハイリスク者においては、コレステロールの摂取を200mg/日未満」と脚注に追加記載する提案になっています。
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本当の悪玉コレステロールはLDLコレステロールの一部です。善玉と言われるHDLコレステロールも量より質(コレステロール引き抜き能)が大切です。
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(1) 「NIPPON DATA 80」で鶏卵摂取量と虚血性心疾患や脳卒中による死亡とに関連がない(Am J Clin Nutr 2004、ただし引用されている論文では鶏卵を制限すると女性の総死亡が減る可能性が書かれています。飽和脂肪酸のデータはありません )。(2) 鶏卵摂取量と冠動脈疾患との関連がない(JPHC研究)(Br J Nutr 2006)(3) 糖尿病患者においても、卵の摂取量と冠動脈疾患罹患との関連は認めておらず、横断的な卵の摂取量と糖尿病有病率との関連も認められていない(JPHC研究、引用されているBr J Nutr. 2006にこの内容の記載はありません。鶏卵と糖尿病リスクの論文はBr J Nutr 2014です)。(4) ハワイ日系人で総コレステロール摂取量と各疾患の死亡率を観察した研究があり、正相関で「325mg/1000kcal以上の群で虚血性心疾患の増加」を認めている。ただし飽和脂肪酸摂取量で調整されていないため、同時に摂取する飽和脂肪酸摂取量が影響している可能性がある。
令和元年9月7日
空腹の「ものさし」
空腹の「ものさし」を作ってみませんか?
食べ物がいつも身近にあると、本当の空腹が分からなくなることがあります。「食べたい」と思った時、それが本当の空腹からくる欲求なのか、情動から来る「食べたい」なのかを区別してみましょう。
0:とてつもなくひもじい
3:空腹
5:快適
7:満腹
10:これ以上は食べられない
自分は今、この「ものさし」のどこにいますか?
「食べたい」が身体的欲求なら食べましょう。
そうではなく、「食べたい」という気分・感情だけなら、もう少し我慢してみましょう。
食事の時も、途中でちょっと箸を休めて感じてみましょう。
本当は満腹なのに、まだ胃に詰め込めるからと食べていませんか?
令和元年7月24日
ソーダ税
甘味飲料に税金をかけると消費量が減るという話です。
米国ではバークレイとフィラデルフィアで甘味飲料に税金がかかるようになりました。いわゆるソーダ税です。
バークレイでは税金がかかるようになって3年で、甘味飲料の消費が45%減少しました(Am J Public Health 2019)。得られた税金は公衆衛生・教育プログラムなど、健康の公平性を保つのに使われています。
フィラデルフィアでは税金がかかるようになって1年で、甘味飲料の消費量が正味38%減少しました(JAMA 2019)。この税金収入は低所得家庭児の幼稚園・保育園無料化に使われます。
低所得者は学習の機会が少なく知識がないために、健康に悪い飲食物の消費が増えます。ソーダ税には、(1) 値段を上げて甘味飲料を買いにくくする、(2) 知識がないために悪い生活習慣になっている人に勉強の機会を与える、2つの効果があります。
フィラデルフィアのソーダ税は1オンス(30ml)あたり1.5セントです。実際のスーパー小売り価格をみますと、1オンス(30ml)あたり、2016年 5.43セント → 2017年 6.24セントでした。ソーダ税のかからないボルティモアでは同 5.33セント → 5.50セントでした。
ボルティモアではわずか3%の値上がりだったのですが、フィラデルフィアでは15%も小売り価格が値上がりしたのですね。
令和元年7月8日
超加工食品は全死亡、心血管系疾患を増やす
2つ目の論文は超加工食品は全死亡を増やすというものです(BMJ 2019)。SUN前向き研究の対象集団を使い、1999年から2014年にかけて行われました。舞台はスペインです。
参加者は19,899人(男性7,786人、女性12,113:20-91歳)です。食事は136項目のアンケートで調査しました。
観察期間中に335人が死亡しています(200,432人・観察年)。超加工食品の摂取割合を4分位に分け、最も多く取っている群は最も少ない群に比べて、全死亡のリスクが1.62(1.13-2.33)と増加しました。超加工食品の摂取が1人前増える毎に死亡リスクが18%増加します。
3つ目の論文は超加工食品は心血管系疾患を増やすというものです(BMJ 2019)。この研究はフランスで行われました。
参加人数は105,159人(18歳以上)、中央値で5.2年観察しています(NutriNet-Sante研究)。食事は3300以上の項目を含むデータベースで分類しました。
その結果ですが、超加工食品が食事に占める割合が10%増える毎の全心血管系疾患リスクは1.12と増加しました(冠動脈疾患では1.13、脳卒中は1.11)。飽和脂肪酸量、塩分、糖類、食物繊維、健康食パターンなどの各種項目で補正しても結果は同じでした。
1つ目の論文は「超加工食品は食べ過ぎてしまう」でした。今回の論文は「超加工食品は健康に悪い」です。超加工食品に含まれる添加物が悪いのか、食べやすくおいし過ぎるのが悪いのか分かりませんが、栄養の偏りではなさそうです。
健康のためには超加工食品を控えるのが良いでしょう。
令和元年6月28日