飽和脂肪酸と動脈硬化:乳製品がすべて悪いわけでない
乳製品には飽和脂肪酸が豊富に含まれています。しかし乳製品と動脈硬化の関連を検討した最近の論文を見ますと、乳製品すべてが悪いわけではなさそうです。全乳製品摂取は心筋梗塞リスクと逆相関するという論文がいくつかあります。結論が少し相反する論文もありますが、おおよそをまとめると、チーズ、発酵させた乳製品がリスクを減らし、バターがリスクを上げるようです。
スエーデンの女性を対象にした研究(乳腺撮影コホート、J Nutr2013)では、33,636人(48-83歳)、11.6年観察しています。全乳製品摂取と心筋梗塞リスクは逆相関(HR0.77:五分位両端比較)、チーズ摂取が逆相関(同 0.74)、パンに塗るバターが正相関(同 1.34)でした。
同じくスエーデンの成績ですが、別の論文(Eur J Epidemiol2011)では、26,445人(44-74歳、女性が62%)、12年観察しています。全乳製品摂取は心血管系疾患と逆相関しました。個々の乳製品でみると、発酵乳のみが逆相関(15%減少)、チーズは女性でのみ有意に逆相関でした。
Epic-Potsdam研究は乳製品に絞った研究でありませんが、23,531人、8年観察しています。主要慢性疾患(心血管系疾患+糖尿病+癌)で評価しています。結果は、バター摂取は慢性疾患の増加と関連(Eur J Clin Nutr2013)。
動脈の硬さを指標にした研究では、乳製品はバターだけが悪影響と関連していました(Hypertension2013)。
低脂肪乳を使ったヨーグルトは通常のヨーグルトよりリスクを下げるでしょうか。興味があるのですが、よくわかっていません。乳製品ではバターを控えるのが賢明のようです。
注:
正相関:一方の因子が増加すると他方が増加し、減少すれば他方が減少する関係
逆相関:一方の因子が増加すると他方が減少し、減少すれば他方が増加する関係
平成25年8月22日
食品の蛋白質含有量
もう少し詳しく説明しますと、国連食糧農業機関(FAO)が2003年に推奨した分析法を世界で初めて採用しました。それはアミノ酸組成から蛋白質量を求める方法で、食品中の蛋白質含有量がより正確に算定されました。その結果、今までの成分値より蛋白質含有量が1〜2割減少しました。
これまでの食餌療法の研究は古い成分表に基づいています。正確な蛋白質含有量のデータが普及してくるなら、指示量も変わっていく必要があります (例: 1.5割減少とすると、1.0-1.2g/kg → 0.85-1.0g/kg の蛋白質指示になります)。
平成25年7月26日
蛋白質摂取量
食品交換表は蛋白質の摂取量を1.0-1.2g/kgとしていますが、炭水化物 50%の配分例で蛋白量が1.2g/kgを超える例が出てきます。その時は「腎症2期以上は適応なし」とコメントが入るそうです。腎障害がない場合は、蛋白質が1.2g/kgを超えても問題ありません。三大栄養素の配分はグレードAになっていますが、実は蛋白質摂取量について統一された見解はありません。これまでの栄養指導の流れとガイドラインをいくつか紹介します。
まず日本の栄養指導です。
昭和50年代の糖尿病の栄養指導の蛋白質量は、軽作業以下1.0-1.5g/kg、 中〜重労働、発育期1.5g/kg でした。一番新しいガイドラインでは、「十分な科学的根拠を伴う成績に乏しいが、標準体重1kgあたり1.0-1.2gを指示することが多い」となっています(科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013)。(専門家の意見)
糖尿病の人に対する指導ではありませんが、2010年日本人の食事摂取基準では、蛋白質の耐用上限量について「明確な設定根拠はない」としています。そのあとに「成人では2.0g/kg未満が適当」と書かれています。
米国の栄養指導です。
米国糖尿病学会は、以前は糖尿病患者は0.8g/kgとするのが賢明としていました。糖尿病は腎障害を起こしやすいので、「最初から蛋白質制限を」という考えです(まず守られなかった制限と思います)。
2008年に同学会は低炭水化物食を制限付き承認します。この年のガイドラインでは、蛋白摂取量は一般人の場合(15-20%)から変更する根拠がないとしています(Diabetes Care2008)。(注:低炭水化物食は今でも制限付き承認です)
同学会の一番新しいガイドラインは蛋白質の数字を挙げていません。(蛋白質制限は腎障害のある人の項目に書かれているだけです)(Diabetes Care2013)
一方、ジョスリンクリニックの栄養指導(2011)では、補正体重=標準体重+0.25x(実際の体重-標準体重)を計算し、1.2g/kg補正体重以上を指導しています。上限については、「2g/kg補正体重以上は、それを支持する根拠がない」としています(ジョスリンクリニックはボストンにある世界的な糖尿病研究施設です)。日本のガイドラインより摂取量がずっと多くなります。
糖尿病のない人の栄養ガイドラインを見ると、19歳以上では炭水化物45-65%、蛋白質10-30%、脂質25-35%の配分になっています(Dietary Guidelines for Americans 2010、1800kcalとすると蛋白質は45-135gになります)。
その他を見ますと、
2型糖尿病管理の欧州・米国糖尿病学会合同声明(2012)では数字を挙げていません。食事指導は個人に合わせるべきとなっています。オーストラリアでは10-20%の配分を勧めています。
専門家の意見が異なると、ずいぶんと異なったガイドラインになりますね。
腎障害がなければ、蛋白質の摂りすぎは(極端でない限り)気にする必要はありません。
平成25年7月24日
LookAHEAD研究について
LookAHEAD研究の概要
米国16施設で施行された研究で、5145人の肥満あるいは過体重の2型糖尿病患者が対象です。少なくとも7%の減量を目指して、カロリー制限と運動で生活習慣に強く介入しました。一次評価項目は「心血管系による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、狭心症入院」です。最長13.5年観察する計画でしたが、これ以上延長しても結果が変わらないと判断され、昨年に中止されました(平均9.6年観察)。
体重減少は1年の段階で 8.6% 対 0.7% (介入群、コントロール群)、終了時点で 6.0% 対 3.5% (同)であり、介入群のほうが減量しています。介入群は、HbA1cが低く、フィットネスが高くなっていました。介入群は、LDLコレステロール以外の心血管系リスクが全て減少していました。ここまでは良いことづくめですが、肝腎の脳心血管系イベントに差がありませんでした(HR:危険率、 0.95)。
簡単に説明しますと、食事カロリーを減らし、積極的に運動して体重を減らしても、脳心血管系イベントが減らなかったという成績です。介入群の体重減少が途中で緩んでいること、スタチンなど血管保護作用のある薬がコントロール群にも使われて介入効果が薄れていることなどが考察されています。
糖尿病における心血管系合併症の予防は、血糖コントロールを厳しくしてもうまくいかないことが常識になってきています。血圧やコレステロールなど、総合的な対応が求められ、なかなか手ごわい相手と思います。見方を変えると、高血圧や高脂血症の薬に良い薬ができていることを感じます。久山町研究で高血圧が心筋梗塞のリスクでなくなったのも治療の進歩です。
いっぽうで、生活習慣への積極的介入は、糖尿病の部分的寛解をもたらし、尿失禁、睡眠時無呼吸症候群、うつ病の減少、生活の質、身体機能、運動能の改善をもたらしています(すべてLookAHEAD研究)。「生活習慣の改善が無意味」ということでありませんので、間違いのないようにお願いします。
平成25年7月11日