SGLT2阻害剤について
腎臓が糸球体で血液をろ過する時、血液中のブドウ糖(グルコース)はいったん尿(原尿)に出ます。このブドウ糖は尿細管で再吸収され、最終尿にはブドウ糖が出ない仕組みになっています。このブドウ糖再吸収に関わっているのが、Na-グルコース共輸送体2:SGLT2です。SGLT2阻害剤はこのSGLT2を抑える薬です。
SGLT2に生まれつき異常がある人がいますが、尿糖以外に大きな問題がありません。ですから、SGLT2を抑えても大きな副作用は出ないだろうと予想されています。
SGLT2阻害剤はもうすぐ使えそうです。ヨーロッパでは、昨年11月にダパグリフロジンが承認されました。米国では今年の4月にカナグリフロジンが承認されました(ダパグリフロジンは米国では不承認:発がん性の検討が不十分との理由)。我が国ではイプラグリフロジンが3月に申請されています。
開発には日本の会社が結構頑張っていて、カナグリフロジンは田辺三菱製薬、イプラグリフロジンはアステラス/寿製薬が創薬しています(ダパグリフロジンは、ブリストル・マイヤーズスクイブ/アストラゼネカ)。SGLT2阻害剤の主な副作用は尿糖増加による感染症(膣炎、膀胱炎)、尿量増加に伴う脱水症状です。
平成25年4月11日
追記:
SGLT2阻害薬は、田辺三菱製薬の人たち(荒川さん他)が基礎的研究を行いました(平成26年度日本薬学会創薬科学賞を受賞)。そこに大阪大学の金井先生がSGLT2遺伝子のクローニングを発表し、一気に製薬競争が始まりました。
地中海食と心血管疾患:PREDIMED研究
最後にPREDIMED研究(NEJM2013)をご紹介します。前回にご紹介したPREDIMED-Reusは1施設だけでしたが、これはスペイン内多施設です。主要エンドポイントは心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)です。リヨン研究と違って一次予防です。まだ起こしていない疾患の予防が一次予防、再発予防が二次予防です。
対象は55-80歳、7447人(女性57%)と多人数です。前回同様、低脂肪食、地中海食オリーブ油群、地中海食ナッツ群の3群の比較です。4.8年観察した時点で、心血管イベントは低脂肪食群に比べて地中海食オリーブ油群で0.70(0.54-0.92)、地中海食ナッツ群で0.72(0.54-0.96)に減少していました。
実際に摂っていたオリーブ油の量は50g(=55ml)/日、1週間に1Lのオリーブ油は彼らにとっても無理だったようです。
この研究の残念なことは、低脂肪食が本当の低脂肪食でないことです。脂肪の摂取量が全エネルギーの39%(開始時)〜37%(終了時)と高いのです。また、低脂肪食では脂肪の多い魚を摂らないよう勧めています。魚油には動脈硬化を予防する効果がありますので、これも問題かもしれません。低脂肪食との比較は、実際は典型的西洋食との比較でしょうか?日本人にとっては日本食と地中海食の比較が欲しいところです。
平成25年3月27日
地中海食と糖尿病
2型糖尿病累積発症リスク(多変量で補正)は、地中海食の低スコア(0-2)の人を「1」とすると地中海食の高スコア(7-9)の人は0.17(0.04-0.72) でした。この地中海食スコアは前回お示しした地中海食の特徴9項目の合計点数です。地中海食的な食事を摂っている人は糖尿病の発症が1/6に減るという成績です。
最近、介入研究が発表されました(Diabetes Care 2011、PREDIMED-Reus研究)。大掛かりなPREDIMED研究の中で、ブドウ糖負荷試験を行っていた1施設の結果です。55-80歳の418人が参加しています。
低脂肪食群、地中海食オリーブ油群、地中海食ナッツ群の3つの比較です。地中海食オリーブ油群はオリーブ油(エクストラバージン)を1週間で1L、地中海食ナッツ群はナッツ類を1日30g摂るように指導しています。
積極的なカロリー制限、減量指示はありません。地中海食群では、さらに地中海食スコアをあげるために、(1) オリーブ油の豊富な摂取、(2) 果物、野菜、豆類、魚の積極的摂取、(3) 肉類を減らす、(4) トマト、にんにく、タマネギ、スパイスとオリーブ油を混ぜたソースを使う、(5) バター、クリーム、ファーストフード、スィーツ、菓子パン、砂糖入り飲み物を避ける、(6) 飲酒者は適量の赤ワインにする ことを指導しています。
結果ですが、糖尿病の発症は低脂肪食群に比べて (1) 地中海食オリーブ油群で51%、(2) 地中海食ナッツ群で52%、(3) 両地中海食合わせると52%の減少が認められました。なお5%以上の体重減少を認めた人は3群間で差はありませんでした。
この論文のオリーブ油の量は大変に多く、日本人はついていけないように思いますが、積極的に地中海食を摂ることは糖尿病の予防になるようです。
平成25年3月18日
7ヶ国研究と地中海食、日本食
7ヶ国研究は正式には1958年から始まった国際共同研究です。コホート(対象集団)の数は全部で16です。アメリカから1つ、オランダから1つ、フィンランドから2つ、ギリシャから2つ、イタリアから3つ、旧ユーゴスラビアから5つ、日本から2つ(田主丸:久留米市田主丸町、牛深:熊本県天草市)のコホートが研究に参加しています。全部合わせると7ヶ国、対象が40-59歳の男性12,763人です。観察期間は〜25年間です。
この研究で明らかになったことは「冠動脈疾患の起こり方がコホートによって違うこと」です。日本、地中海諸国 < ヨーロッパ内陸部 < 米国 < 北欧 の順に起こりやすくなります。動脈硬化はコレステロール、年齢、血圧、喫煙、運動、体重と関連することがわかっています。そこでこれらのリスクで補正してみたのですが、結果は変わりません。単純な動脈硬化リスクで説明できない何かがあることがわかったのです。体質(遺伝)でしょうか、文化的背景(食事、運動を含む環境因子)でしょうか。最終的に、その何かは「食事」ではないかと考えられたのです。地中海食が注目されるようになったきっかけです。
日本も冠動脈疾患が低いのですが、その後の進展はあまりないようです。魚が多く、抗酸化物質の摂りかたが多いとされますが、注目のされ方は低いように思います。西洋食からずいぶんと外れていて、西洋諸国でそれ以上の研究がしにくいからでしょう。それでも彼らは日本食が気になるようです。
平成6年に神戸で国際糖尿病学会が開かれたとき、カナダのジェンキンスや米国のフランツがマイクを奪い合うようにして発言したのは、(1) 心筋梗塞の少ない日本の方が北米より食事療法が進んでいる。(2) 私たちは北米の食事療法を紹介するために来たのであって、私たちの真似をする必要はない。(3) 私たちは日本の食事が実際どうなっているかを見に来た、という事でした。米国の食事療法を日本より上位にみる必要はありません。
7ヶ国研究の日本のデータをみると、諸外国と違って高コレステロールのデータがありません。当時はコレステロールの高い日本人が少なかったためです。時代の違いを感じます。
平成25年3月11日