ランタスとトレシーバの比較
ランタス(インスリングラルギン)は24時間にわたり、「ほぼ一定のインスリン作用が続く」ことを期待して作られた持効型インスリン製剤です。とてもよくできた製品で、これまでインスリン頻回注射療法の基礎分泌補充にはNPHインスリン(中間型インスリン)が使われていましたが、これをほぼ駆逐しました。ランタスはサノフィ社が開発しましたが、バイオ後続品も出ています。3倍濃くしたランタスXRも開発されています(ランタスXRはランタスより作用持続時間が長くなっています)。
サノフィ社のランタスに対抗してノボ社はレベミルを、引き続いてトレシーバを開発しました。トレシーバはほぼ2日作用します。リリー社も持効型インスリン(ペグリスプロ)を開発しようとましたが、成績が良くなく中止しました。これら持効型インスリン製剤のポイントは作用持続時間です。作用持続時間が長いほど効果が平坦になって作用の山や谷が少なくなり、低血糖リスクが少なくなります。
最近トレシーバの安全性をランタスと比べた成績が発表されました(DEVOTE試験: NEJM 2017)。
対象は2型糖尿病7637人で、85.2%の人に心血管系/慢性腎疾患があります。平均年齢は65.0歳、糖尿病の罹病期間が16.4年、HbA1c8.4%です。研究デザインは二重盲検法で、トレシーバに3818人、ランタスに3819人振り分け、24ヶ月観察しました。一次複合エンドポイントは主要心血管系イベント(心血管系疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)です。
HbA1cは両群とも7.5%まで改善し、インスリン臨床効果は同等でした。一次複合エンドポイントはトレシーバ群で8.5%、ランタス群で9.3%に起こりました。両群間に差がなく、トレシーバはランタスと同等の安全性があることが確認されました。重症低血糖については、トレシーバ群(4.9%)の方がランタス群(6.6%)より少ない成績でした。この研究は「トレシーバがランタスに比べて悪くない(非劣性)」ことを検討するために行われ、その目的は無事検証されたようです。
この研究を別の視点から見ますと、低血糖の回数に差があっても心血管系イベントは変わりませんでした。どうも「重症低血糖は心血管系イベントを増やして死亡を増やす」というシナリオはなかったようです。このシナリオはアコード試験以後強調されていましたが、主要心血管系イベントには、不安定プラークなど他の要因の方が大きいようです。
平成29年8月25日
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