院長ブログ一覧

スタチン(コレステロール低下薬)とコロナウイルス感染症

コレステロールを下げる薬として、スタチン(プラバスタチン、ピタバスタチンなど)があります。我が国で開発され、心筋梗塞など動脈硬化性疾患を減らす効果が強く、副作用が少なく、評価の高い薬です。

スタチンはコロナウイルス感染症と関係がなさそうですが、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制する、あるいは促進するという2つの見解がありました。今回メタ分析の結果が報告されましたので、紹介します(Amer J Cardiol)。

2020年7月27日までにコロナウイルス感染症とスタチン使用に関連する論文は274編出版されています。この中から良質の論文を探すと4編の論文が抽出されました。うち3編は大規模研究で多変量で交絡因子を調整しています。

総勢8,900人の新型コロナウイルス患者さんの分析になります。スタチン服用者の重症化〜死亡リスクは非服用者と比べて0.70(0.53-0.94)と低くなっていました。スタチンによる重症化促進作用は否定的でした。

これが本当なら魅力的な結果ですね。ただスタチンのリスク減少効果をはっきり言うには前向き介入試験が必要です。ぜひ次の研究を期待したいです。


令和2年8月30日

糖尿病と新型コロナウイルス感染症

糖尿病があると新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいことが知られています。調査対象を糖尿病患者さんに絞った詳しい分析が報告されましたので紹介します。英国の糖尿病患者さんの98%が含まれる膨大なデータの解析です(Lancet 2020)。

調査期間は2月16日〜5月11日です。英国で一般診療を受けている1型糖尿病264,390人、2型糖尿病2,874,020人のうち、それぞれ464人、10,525人が新型コロナウイルス感染症で亡くなりました。

超過死亡も急増しています。超過死亡というのは、普段の年よりどのくらい亡くなられる人が増えているかを見たものです。大ざっぱですが、他の病気が増えていないと仮定した場合「コロナと診断がつかずに亡くなられた人も含む指標」になります。その超過死亡ですが、糖尿病患者の死亡者数は過去3年の同時期と比べて1型糖尿病で50.9%、2型糖尿病で64.3%増えています。

新型コロナウイルス感染で亡くなるリスクが高いのは、男性、高齢、腎障害、非白人、貧困、脳卒中既往、心不全既往がある人です。

男性は女性より重症化しやすく、1型、2型糖尿病とも男性の危険率は1.61でした。年齢の影響はとても大きく、60歳代の人を基準にすると、70歳代の危険率は1型糖尿病で1.89、2型糖尿病で1.94、80歳以上では1型糖尿病で4.79、2型糖尿病で4.52でした。

糖尿病コントロールが悪いのも良くありません。HbA1c7.6%以上で死亡リスクが高くなりました。HbA1c 6.5%の人に比べて、HbA1c10%超の人の危険率は1型糖尿病で2.23、2型糖尿病で1.61でした。

BMI(体格指数:体重kg/(身長mx身長m))の危険率はU字型を示し、痩せすぎと肥満で高くなりました。最もリスクが低いのがBMI25.0-29.9でした。英国では肥満が悪いとして、コロナの重症化リスクを下げる政策:肥満解消キャンペーンをしています。

なおBMIについてはちょっと注意が必要です。日本人はそれほど太ってなくても肥満の影響が出ます。そのため肥満の基準は日本では欧米より厳しくなっています(日本ではBMI25以上、欧米では30以上が肥満)。コロナウイルス感染症において日本ではどちらの数字で考えるのが良いかは分かりません。


令和2年8月28日


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