糖尿病の歴史23 膵臓研究事始め (1)
「糖尿病の歴史」もいよいよ膵臓の話に入ります。
膵臓は、(1) 消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌して消化を助け、(2) インスリンを血中に分泌して血糖を下げる働きをしています。膵臓は胃の後ろにあって分かりにくい臓器です。中国医学では全く知られておらず、膵という漢字も我が国で江戸時代に作られました。しかし西洋医学では働きはともかく、存在そのものは古くから知られていたようです(ハワード、ヘス)。
ヒポクラテス(紀元前460年頃)は膵臓を見ていた可能性があります。彼の時代はリンパ節も腺と呼ばれていました。ヒポクラテスによると、腺に2種類あり、それは皮下組織にあるもの(毛を伴なう腺)と、それ以外の場所にあるもの(毛を伴なわない腺)であり、後者に膵臓らしき記述があります。
大網は胃などの臓器を取り囲むように存在する腹膜の一部を指す解剖用語です。残念ながら「大網の腺」が膵臓であるかリンパ節であるか、この記載からは定かでありません。
平成27年8月10日
膵臓は、(1) 消化酵素を含む膵液を十二指腸に分泌して消化を助け、(2) インスリンを血中に分泌して血糖を下げる働きをしています。膵臓は胃の後ろにあって分かりにくい臓器です。中国医学では全く知られておらず、膵という漢字も我が国で江戸時代に作られました。しかし西洋医学では働きはともかく、存在そのものは古くから知られていたようです(ハワード、ヘス)。
ヒポクラテス(紀元前460年頃)は膵臓を見ていた可能性があります。彼の時代はリンパ節も腺と呼ばれていました。ヒポクラテスによると、腺に2種類あり、それは皮下組織にあるもの(毛を伴なう腺)と、それ以外の場所にあるもの(毛を伴なわない腺)であり、後者に膵臓らしき記述があります。
耳の周囲や頚静脈の上に腺がある。近辺に毛がある。腋窩にも毛をもつ腺があり、鼠径部、恥部にも腺がある。腸など身体の他の部分にある腺、また大網に非常に大きな腺があって他の部位の腺よりはるかに大きいが、これらの腺は毛を持たない。
大網は胃などの臓器を取り囲むように存在する腹膜の一部を指す解剖用語です。残念ながら「大網の腺」が膵臓であるかリンパ節であるか、この記載からは定かでありません。
平成27年8月10日
糖尿病の歴史22 中国の糖尿病の歴史(3)
外台秘要(752年)は唐の時代に王燾(おうとう)が編集した処方集です。外台秘要に糖尿病では尿が甘いこと、治療後の判定に尿の状態を用いることが記されています。西洋医学で初めて尿を舐めたウィリスの900年前の記述です。
糖尿病患者に鍼灸治療をしてはならないことまで書かれています。 糖尿病になると感染症に弱くなります。そこに不衛生な処置をすれば容易に皮膚感染症をおこします。于瘡は「おでき」のことで、于瘡の集まったものが「よう(癰)」です。「100日以上糖尿病を患う人に鍼灸治療すればおできができ、上に破れて排膿し、膿の止むことがなく、遂に「よう」〜皮下膿瘍になる」リスクが書かれています。
平成27年7月28日
《外台秘要》卷第十一
近效祠部李郎中消渴方一首
消渴者。原其发动。此则肾虚所致。每发即小便至甜。医者多不知其疾。(消渇は、もと、その発動は此れすなわち腎虚の致すところなり。発する毎に即ち小便甜きに至る。医者多くはその疾を知らず。)
消中消渴肾消方八首
、、、得小便咸苦如常(小便減もしくは常の如きを得る ):服薬後の治療効果判定が書かれています。
消渴不宜针灸方一十首
千金论曰∶凡消渴病经百日以上者。不得灸刺。灸刺则于疮上漏脓水不歇。遂成痈疽。(千金論曰く:凡そ消渇の病、百日以上経る者は灸刺を得ず。灸刺すれば即ち于瘡上漏し、膿水歇ず。遂に癰疽と成る)
糖尿病患者に鍼灸治療をしてはならないことまで書かれています。 糖尿病になると感染症に弱くなります。そこに不衛生な処置をすれば容易に皮膚感染症をおこします。于瘡は「おでき」のことで、于瘡の集まったものが「よう(癰)」です。「100日以上糖尿病を患う人に鍼灸治療すればおできができ、上に破れて排膿し、膿の止むことがなく、遂に「よう」〜皮下膿瘍になる」リスクが書かれています。
平成27年7月28日
糖尿病の歴史21 中国の糖尿病の歴史 (2)
金匱要略は、張仲景(150-219)が著した医学書です。元々の書物は「傷寒雑病論」ですが、「傷寒論」と「金匱要略」の2つに分かれて伝わりました。「傷寒論」が急性熱性疾患を対象にし、「金匱要略」が慢性疾患を受け持っています。日本漢方はこの医学書を重視して発展しました。
多尿・多飲は消渇(糖尿病)の代表的な症状です。腎気丸は八味地黄丸のことで、腎虚に対して用いられる代表的な漢方処方です。腎虚は腎機能が低下した状態を指しますが、西洋医学の腎臓と別物です。「腎」は内分泌系や免疫機能も含む生命力全般に関わる概念です。
平成27年7月17日
消渴小便利淋病脈證並治第十三
男子消渴,小便反多,以飲一斗,小便一斗,腎氣丸主之。
(男子消渇、小便反って多く、一斗を飲むことを以って小便一斗、腎気丸之を主る)
多尿・多飲は消渇(糖尿病)の代表的な症状です。腎気丸は八味地黄丸のことで、腎虚に対して用いられる代表的な漢方処方です。腎虚は腎機能が低下した状態を指しますが、西洋医学の腎臓と別物です。「腎」は内分泌系や免疫機能も含む生命力全般に関わる概念です。
平成27年7月17日
糖尿病の歴史20 中国の糖尿病の歴史 (1)
ここでしばらく中国古代医学を紹介したいと思います。
黄帝内経は前漢(紀元前206年 - 8年)時代に編纂された医学書です。原本は残っておらず、762年に王冰によって編纂されたものが伝わっています。黄帝内経には素問と霊柩があります。素問は黄帝が岐伯(きはく)など学者に質問をし、返答を問うたところから「素問」と呼ばれます。素問の中に糖尿病とみられる記述があります。
まず黄帝が疑問を発します。「口の中が甘くなる病気があるが、病名は何か?、何が原因で起こるのか。」これに対して岐伯が答えます。「これは五気があふれるからであり、脾癉という病気です。食物は口に入ると胃に蓄えられ、脾がその精気を運行させます。津液が脾にあり、そのために口が甘くなります。」
中国医学の脾は現代医学の脾臓とは別物です。脾は胃と一体になって働き、水穀から津液を分離し、肺の働きを通じて全身に配ります(津液は薄い体液を指します)。腎は全身に配られた津液を管理して、不用のものを膀胱に貯めます。脾が失調すると、津液の不足・停滞が起こります。ここでは脾が失調して津液が脾に停滞し、口が甘くなると答えています(中国医学では口は脾の状態を反映すると言われます)。
「これは肥満が原因です。この病気になる人は甘美な栄養豊富な食事を摂り、肥満になっています。肥満者は体内に熱が生じ、甘さは腹を膨らませます。そのため(脾が失調して)精気が上に溢れ、消渇を引き起こします(消渇も糖尿病の古い病証です)。これを治すには蘭草を用い、脾に停滞した古い気を除きます。」
甘美な食事で肥満が起こる、これが糖尿病の原因と見抜いています。いかがでしょうか。
平成27年7月10日
黄帝内経は前漢(紀元前206年 - 8年)時代に編纂された医学書です。原本は残っておらず、762年に王冰によって編纂されたものが伝わっています。黄帝内経には素問と霊柩があります。素問は黄帝が岐伯(きはく)など学者に質問をし、返答を問うたところから「素問」と呼ばれます。素問の中に糖尿病とみられる記述があります。
奇病論四十七
帝曰︰有病口甘者,病名為何,何以得之。
歧伯曰︰此五氣之溢也,名曰脾癉。夫五味入口,藏於胃,脾為之行其精氣,津液在脾,故令人口甘也
まず黄帝が疑問を発します。「口の中が甘くなる病気があるが、病名は何か?、何が原因で起こるのか。」これに対して岐伯が答えます。「これは五気があふれるからであり、脾癉という病気です。食物は口に入ると胃に蓄えられ、脾がその精気を運行させます。津液が脾にあり、そのために口が甘くなります。」
中国医学の脾は現代医学の脾臓とは別物です。脾は胃と一体になって働き、水穀から津液を分離し、肺の働きを通じて全身に配ります(津液は薄い体液を指します)。腎は全身に配られた津液を管理して、不用のものを膀胱に貯めます。脾が失調すると、津液の不足・停滞が起こります。ここでは脾が失調して津液が脾に停滞し、口が甘くなると答えています(中国医学では口は脾の状態を反映すると言われます)。
此肥美之所發也,此人必數食甘美而多肥也,肥者令人內熱,甘者令人中滿,故其氣上溢,轉為消渴。治之以蘭,除陳氣也
「これは肥満が原因です。この病気になる人は甘美な栄養豊富な食事を摂り、肥満になっています。肥満者は体内に熱が生じ、甘さは腹を膨らませます。そのため(脾が失調して)精気が上に溢れ、消渇を引き起こします(消渇も糖尿病の古い病証です)。これを治すには蘭草を用い、脾に停滞した古い気を除きます。」
甘美な食事で肥満が起こる、これが糖尿病の原因と見抜いています。いかがでしょうか。
平成27年7月10日